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【本の感想】辛島昇『インド文化入門』筑摩書房、2020年

辛島昇『インド文化入門』筑摩書房、2020年、278頁

インド文化入門 (ちくま学芸文庫)

インド文化入門 (ちくま学芸文庫)

  • 作者:昇, 辛島
  • 発売日: 2020/12/14
  • メディア: 文庫
 

 

 本書は2000年に放送大学教育振興会より刊行された『南アジアの文化を学ぶ』を改題し、文庫化したものである。放送大学の全15回の講義に合わせて全15章で構成されており、基本的にはどの項目から読んでも差し支えはない。しかし、第1章および第2章の内容はそれ以降の項目でもたびたび言及があり、インドの歴史・現在を理解する上で重要なトピックを扱っていると言えるだろう。いずれも宗教・民族といった過去から連綿と受け継がれてきたインド独自の文化を紹介しており、いかにこれらの要素が現代社会に大きな影響をもたらしているかが分かる。

 ところで、私の辛島先生との邂逅は2016年の11月頃だったと記憶している。「脱植民地化」をテーマとした卒業論文の執筆も終盤に差し掛かり、最終節にインドを取り上げることを決めてからというもの、インド史の先行研究を手あたり次第読み漁っていた時期であった。手に取ったのは辛島先生編著の『インド史における村落共同体の研究』(東京大学出版会、1976年)。もっとも、そのちょうど1年前に先生はご逝去されており、直接お目にかかる機会には恵まれなかったのだが。余談だが、上記の本では柳澤悠先生のご執筆された「南インドにおける地主=小作関係の展開─20世紀前半の若干の村落調査に見る」という論文を引用した。柳澤先生も2015年4月にすでにこの世を去られていた。私がインドに関心を向けた頃には、すでに我が国の偉大なインド史の大家は立て続けに旅立たれていた。

 上記の辛島先生の研究は、当時大学4年生であった私には極めて難解であった。ミクロな論点に加え、数量経済史的手法や質的資料を用いた緻密な実証分析は、理解するだけでも精いっぱいで、上手く引用することができなかったという苦い思い出がある。一方で、本書は簡潔明瞭にインドの文化を学ぶことのできるコンパクトな入門書となっている。私のインド史に関する知識が蓄積されてきたこともあろうが、約4年前に読んだ辛島先生の文章とは対照的な印象を受け、新鮮であったというのがまず第一の所感である。

 なお、本書のテキストは2000年当時に著されたものだが、文化から現代インドの成り立ちを読み解くその洞察力は、20年以上経ったいまでも決して色あせていないということは断っておきたい。2021年現在でも十分参考になる本である。

 以下、いくつかの項目をピックアップして紹介して行こう。

目次

はじめに

第1章 「ラーマーヤナ」をめぐって──多様な物語の発展と歴史的意味

第2章 言語・民族問題──ドラヴィダ運動を中心に

第3章 カーストとは何か──その発生と行方

第4章 新聞の求婚広告──バラモン社会の変動

第5章 インダス文字の謎──コンピュータによる解読

第6章 石造ヒンドゥー寺院壁の刻文──王朝史・社会史を解く

第7章 菩提樹の陰にて──インドとスリランカの仏教

第8章 デリー・スルタン朝の遺跡──ムスリム政権とインド社会

第9章 海のシルクロードとインド──胡椒・陶磁器・馬

第10章 カレー文化論──南アジアの統一性

第11章 ベンガル派の絵画と日本──タゴール岡倉天心の交わり

第12章 映画に見るインド社会──映画と政治の関わり

第13章 ティプ・スルタンの理想──イギリスとの戦い

第14章 インドのフェミニズム──ヒンドゥー教における女性蔑視と女神崇拝

第15章 マハトマ・ガンディーの試み──糸車を回す

 

 まず紹介すべきは何と言っても第1章であろう。ラーマーヤナマハーバーラタと並んで二大叙事詩と称されるヒンドゥー教聖典の1つであり、近年では我が国でもFate/Grand Order等のゲームで取り上げられ、その物語性が注目を集めている。紀元後3世紀頃に詩人ヴァールミーキによってその大部分を集成されたこの冒険譚は、ヒンドゥー教のみならず仏教やジャイナ教の文献にも言及が見られ、もともとは不特定多数の著者によって語り継がれてきた伝承である。そのため、地域や宗派によって解釈や表現に差があり、なかでもラーマーヤナを史実の出来事と主張するヒンドゥー教原理主義者が現代でも社会的に問題となっていることが本章で説明されている。こうした原理主義者らが、ラーマ王子の故郷があったとされるウッタル・プラデーシュ州のイスラム寺院を襲撃したアヨーディヤ事件(1992年)は一時期大きな話題となった。一方で、そうした宗派の違いがありながらも、ラーマーヤナ大河ドラマとして人気を博すなど、国家的に解釈の標準化が行われているという。しかし、こうした解釈の統一は、「インドの文化表現」の多様性を抹殺する恐れがあるという批判も見られる。インドの文化の歴史的変遷をたどる上で、ラーマーヤナの多様性が貴重な史料となるという意味で、本章はインド文化入門の前提を取り上げていると言えよう。

 第2章は20世紀初頭に生じたインドの北部と南部の対立を、言語と民族の関係から紐解く。周知の通りインドには数百の言語があると言われているが、言語グループにまとめるとわずか4つに分けられ、北部一帯はヒンディー語に代表されるアーリヤ語族、南部はタミル語に代表されるドラヴィダ語族とされる。いずれも西からインドに入ってきた言語であるが、ドラヴィダ語族の方が先客であり、アーリヤ語族の亜大陸侵入の後、ドラヴィダ語族が南進してこのような地理的棲み分けが生じた。20世紀初頭、南インドではバラモン階級を特権的地位から引きずり降ろそうとする「非バラモン運動」が展開されるが、1937年にバラモン階級のC.ラージャゴーパラチャーリがマドラス州で首相となると、将来の国語化を狙ってマドラス州でヒンディー語教育の導入を図ったことから、これに対する反対運動が激化した。同時代、イギリスによる英語教育導入に対しても厳しく批判が投げかけられたが、インド国内の言語でも類似する構図が見られたのは興味深い*1。しかしながら、実際にこの運動を推進していたのはドラヴィダ民族というよりはタミル民族であり、この対立はタミル民族主義の発露であったとするのが、本書のユニークな現代的視座であろう。

 上記2つの章は、宗教・地理・歴史・言語・民族といった、インドの文化について述べる上で必須となる要素をコンパクトに提示していると言えよう。これらの理解を前提に、第3章以降は各論的にインドの文化について解説がなされている。例えば、第3章と第4章はインド特有のカースト制度についてその特徴と具体的な問題点がまとめられており、ありがちな誤解を払拭しつつも、カースト制度が現代でも職業や結婚といった側面でしがらみを残していることが分かる。その他、スタンダードな政治史にまつわるトピック(13~15章)はもちろんのこと、古代~中世にかけての文字や遺跡、出土品を扱う考古学的な議論(5、6、8、9章)や、芸術と社会の関係(11、12章)、料理(10章)など、様々なインドの見方を網羅している。特に、中世の遺跡に刻まれた刻文から当時の社会経済史を明らかにする第6章や、陶磁片を手掛かりとしてインドを軸に展開されたアジア一帯の海洋貿易の実態を描き出す第9章は、著者自身の長年の研究成果に依拠されており、入門的な内容でありつつも専門的な知見に触れることが可能である。

 イギリス帝国史やインドの脱植民地化に関心を持つ者として、ガンディーを扱った第15章についても紹介しておきたい。ガンディーの生い立ちをたどると同時に彼の独立運動に対する思想を紐解くこの章は、最近の脱植民地化研究の視点からも興味深い記述が見られる。「糸車を回す」という副題からも推察できるかと思うが、ガンディーの独立思想は「イギリスの支配からは解放されなければならないが、インドをイギリス風の国にしてはいけない」というものであった。すなわち、工業化によって欲望と快適さを追求するイギリス式の社会発展を目指すのではなく、機械に象徴される近代文明の悪からインドを守り、人々が心と情欲を自己抑制する新しい社会を築いていくというものである。反物は紡績機ではなく糸車による生産を、鉄道による交易は「堕落」であるため村落を中心とした自治を、というわけである。

 一見前時代的に見える主張だが、西洋式の経済発展を悪と捉えている点は、インドがいまや核保有国かつ軍事大国となったことを鑑みると、この指摘は興味深い。というのも、脱植民地化は政治・経済・文化の3つの側面から考えるべきとされており*2、このうち経済と文化はガンディーの独立の定義に従えば相反する存在となるためである。政治的な脱植民地化とは、単に法的な主権の移譲を指し、「国家としての独立」という事象がこれに相当する。文化的脱植民地化とは、植民地の文化を「劣った文化」と評してきた西洋中心的・オリエンタリズム的価値観からの脱却である。これは近年ようやく注目され始めた観点で、体系的な方法論はいまだ確立されていないように感じるが、ガンディーの思想とも少なからず通ずる部分があろう。そして、経済的脱植民地化とは西洋資本に頼らず、土着の産業によって経済発展を確立することである。これは近年の研究動向を見る限り、経済的自立という観点からのアプローチが多い。例えば、軍事産業の自立化という観点では、横井の航空機産業や船舶の国産化に関する研究*3が挙げられる。これらは冷戦期においてインドがアメリカやソ連をパートナーとして兵器産業の国産化を段階的に達成していった過程が明らかにされている。また、経済・軍事力の強化はインド国内でも独立以前からボンベイ・プランなどで議論されており、渡辺*4は1930年代当時の経済開発構想をインド財閥の視点から詳しくまとめている。しかし、この研究はボンベイ・プランがその後の政策決定にどのように影響したかに力点が置かれている意味で、観点は政治的脱植民地化に近いかもしれない。

 産業の土着化という観点からは、近年では先進国からの経済援助(Economic Aid)に着目した研究*5が盛んである。旧植民地へと経済援助を行うことで、それを元手に経済発展を模索してもらおうという試みは、帝国主義が植民地に富も幸福ももたらしてこなかったとするTomlinsonの問題意識に立脚していると考えられる*6。また、産業の土着化と類似する観点からの研究として、インド化という概念も存在し、主にインド国内で盛んに研究されている。インド化とは、産業の構成要員に占めるインド人の割合を高めていくという考え方であるが、「自国による経済発展」という考え方と類似するように見える一方で、脱植民地化というよりは独立に力点が置かれていることが難点である*7

 さて、話をガンディーの独立思想に戻そう。産業革命は文化・文明を破壊するものという彼の考えは、帝国が崩壊しグローバル化が進んだ現代においては、当然のごとく現実的な見方として扱うことはできない。しかし、先に述べた通り、インドが核保有国となり、軍事大国となった現状を手放しで「経済的発展」と評価して良いかについては、本書が述べるように確かに疑問が残る。上記に挙げた近年の経済的脱植民地化の研究成果からも分かる通り、経済的自立=軍事的自立という印象は否めず*8、ガンディーの指摘するように文化と経済にはトレード・オフの関係があることを意識する必要があろう。

 ただし、ガンディーの考える文化・文明とは精神の問題であり、極めてヒンドゥー教的産物であると考えられる。したがって、ガンディーの主張を額面通りに受け取らず、ヒンドゥー的なバイアスを排除して文化というものを定義していくことも肝要である。帝国史および脱植民地化研究の文化的側面は、近年になってようやく着目されてきたトピックである。何をもって「文化」と定義するか、そしてそれは経済とどのような関係を持つかという観点を重視しつつ、今後の研究動向を追っていきたい。そのうえで、「文化」を様々な角度から定義しようと試みる本書は、多くのヒントを与えてくれるものと期待する。

 

参考文献

・Mukherjee, Aditya., Imperialism, Nationalism, and the Making of the Indian Capitalist Class 1920-1947 (Delhi, 2002).

・Ramnath, Aparajith., The Birth of an Indian Profession: Engineers, Industry, and the State 1900-1947 (New Delhi, 2017).

・Ramnath, Aparajith., ‘International Networks and Aircraft Manufacture in Colonial and Postcolonial India: States, Entrepreneurs and Educational Institutions, 1940-64’, History of Global Arms Transfer, 9 (2020), pp.41-59.

・Tomlinson, B.R., ‘Imperialism and After: The Economy of the Empire on the Periphery’, Brown, Judith.; Roger Louis, Wm., eds., Oxford History of the British Empire, Volume IV: The Twentieth Century (Oxford, 1999), pp.357-378.

The Oxford History Of The British Empire: Volume IV: The Twentieth Century

The Oxford History Of The British Empire: Volume IV: The Twentieth Century

  • 発売日: 2001/09/20
  • メディア: ペーパーバック
 

秋田茂「1960年代の米印経済関係─PL480と食糧援助問題─」『社会経済史学』第81巻第3号、2015年11月、323~340頁。

秋田茂『帝国から開発援助へ─戦後アジア国際秩序と工業化』名古屋大学出版会、2017年。

帝国から開発援助へ―戦後アジア国際秩序と工業化―

帝国から開発援助へ―戦後アジア国際秩序と工業化―

  • 作者:秋田 茂
  • 発売日: 2017/02/01
  • メディア: 単行本
 

・辛島昇『インド文化入門』筑摩書房、2020年。

本書

・木畑洋一『イギリス帝国と帝国主義─比較と関係の視座』有志舎、2008年。

イギリス帝国と帝国主義

イギリス帝国と帝国主義

  • 作者:木畑洋一
  • 発売日: 2008/04/21
  • メディア: 単行本
 

竹内真人「インドにおけるイギリス自由主義帝国主義竹内真人編著『ブリティッシュ・ワールド─帝国紐帯の諸相』日本経済評論社、2019年、37~61頁。

・平田雅博『英語の帝国─ある島国の言語の1500年史』講談社、2016年。

・横井勝彦「1960年代インドにおける産官学連携の構造─冷戦下の国際援助競争─」『社会経済史学』第81巻第3号、2015年11月、341~357頁。

・横井勝彦「戦後冷戦下のインドにおける航空機産業の自立化」横井勝彦編著『航空機産業と航空戦力の世界的転回』日本経済評論社、2016年、347~377頁。

・横井勝彦「インドの兵器国産化政策と軍事援助」『国際武器移転史』第5号、2018年1月、85~106頁。

・横井勝彦「独立後インドの「軍事的自立化」とイギリスの位置」竹内真人編著『ブリティッシュ・ワールド─帝国紐帯の諸相』日本経済評論社、2019年、295~322頁。

・渡辺昭一「インド財閥の戦後経済開発構想─ボンベイ・プランをめぐって─」『ヨーロッパ文化史研究』(東北学院大学)第5号、2004年3月、161~203頁。

・渡辺昭一編著『コロンボ・プラン─戦後アジア国際秩序の形成』法政大学出版会、2014年。

コロンボ・プラン: 戦後アジア国際秩序の形成

コロンボ・プラン: 戦後アジア国際秩序の形成

  • 作者:渡辺 昭一
  • 発売日: 2014/03/04
  • メディア: 単行本
 

・渡辺昭一「1960年代イギリスの対インド援助政策の展開─インド援助コンソーシアムとの関連で─」『社会経済史学』第81巻第3号、2015年11月、303~321頁。

・渡辺昭一「冷戦体制下における国際開発援助体制の確立とアジア─1950~1960年代の趨勢」『ヨーロッパ文化史研究』(東北学院大学)第18号、2017年3月、1~32頁。

・渡辺昭一「冷戦期南アジアにおけるイギリスの軍事援助の展開」『国際武器移転史』第5号、2018年1月、59~83頁。

 

*1:イギリス人官僚T.B.マコーリーは「私はサンスクリット語アラビア語の知識を持たないが、ヨーロッパの良い図書館の一棚はインドとアラビアの全ての作品に値する」、故に「英語はサンスクリット語アラビア語よりも知るに値する言語である」として、インドにおける英語教育の導入を強行した。竹内真人「インドにおけるイギリス自由主義帝国主義竹内真人編著『ブリティッシュ・ワールド─帝国紐帯の諸相』日本経済評論社、2019年、42頁。平田雅博『英語の帝国─ある島国の言語の1500年史』講談社、2016年、149~150頁。一方、非バラモン運動を展開していた南インド自由連盟は、「今インドが独立しても、イギリスの支配がバラモンの支配に代わるだけ」と主張するなど、イギリス支配とバラモン支配を同等のものと考えていたことが本書で指摘されている。どの言語を「国語」とするかは、大学入試や就職試験などにも関わってくるため、極めてデリケートな問題であろう。本書、38~43頁。

*2:木畑洋一『イギリス帝国と帝国主義─比較と関係の視座』有志舎、2008年、213~217頁。

*3:横井勝彦「1960年代インドにおける産官学連携の構造─冷戦下の国際援助競争─」『社会経済史学』第81巻第3号、2015年11月、341~357頁。同「戦後冷戦下のインドにおける航空機産業の自立化」横井勝彦編著『航空機産業と航空戦力の世界的転回』日本経済評論社、2016年、347~377頁。同「インドの兵器国産化政策と軍事援助」『国際武器移転史』第5号、2018年1月、85~106頁。同「独立後インドの「軍事的自立化」とイギリスの位置」竹内真人編著『ブリティッシュ・ワールド─帝国紐帯の諸相』日本経済評論社、2019年、295~322頁など。

*4:渡辺昭一「インド財閥の戦後経済開発構想─ボンベイ・プランをめぐって─」『ヨーロッパ文化史研究』(東北学院大学)第5号、2004年3月、161~203頁。

*5:例えば、秋田茂「1960年代の米印経済関係─PL480と食糧援助問題─」『社会経済史学』第81巻第3号、2015年11月、323~340頁。同『帝国から開発援助へ─戦後アジア国際秩序と工業化』名古屋大学出版会、2017年。渡辺昭一編著『コロンボ・プラン─戦後アジア国際秩序の形成』法政大学出版会、2014年。渡辺昭一「1960年代イギリスの対インド援助政策の展開─インド援助コンソーシアムとの関連で─」『社会経済史学』第81巻第3号、2015年11月、303~321頁。同「冷戦体制下における国際開発援助体制の確立とアジア─1950~1960年代の趨勢」『ヨーロッパ文化史研究』(東北学院大学)第18号、2017年3月、1~32頁。同「冷戦期南アジアにおけるイギリスの軍事援助の展開」『国際武器移転史』第5号、2018年1月、59~83頁。

*6:Tomlinson, B.R., ‘Imperialism and After: The Economy of the Empire on the Periphery’, Brown, Judith.; Roger Louis, Wm., eds., Oxford History of the British Empire, Volume IV: The Twentieth Century (Oxford, 1999), pp.357-378.

*7:例えば、Ramnathはタタ財閥を媒体に、インドの製鉄業におけるインド化の過程を詳述している。Ramnath, Aparajith., The Birth of an Indian Profession: Engineers, Industry, and the State 1900-1947 (New Delhi, 2017). また、Mukherjeeはインド人の構成割合ではなく、インド国内の産業に占めるインド資本の割合の増加に着目しており、これもインド化と捉えることができよう。Mukherjee, Aditya., Imperialism, Nationalism, and the Making of the Indian Capitalist Class 1920-1947 (Delhi, 2002). しかし、いずれのタイトルからも分かる通り、これらインド側からの研究はその多くが1947年のインド独立を一つの区切りとしており、横井、秋田、渡辺らの着目する冷戦期の経済援助や産業の国産化については検討していないことが特徴である。インド本国で展開されている20世紀を対象とした経済史研究は、脱植民地化というよりはいわゆるFrom Colony to Nation Approach(植民地から国家へ)に立脚している傾向にあり、分析手法としては政治的脱植民地化の域を出ていないような印象を受ける。ただし、唯一の例外として、前述のRamnathは最近ヒンドゥスタン航空(Hindustan Aircraft Limited)の航空機国産化とインド化について、独立期から冷戦期を射程として研究を進めている。Ramnath, Aparajith., ‘International Networks and Aircraft Manufacture in Colonial and Postcolonial India: States, Entrepreneurs and Educational Institutions, 1940-64’, History of Global Arms Transfer, 9 (2020), pp.41-59.

*8:上記横井、渡辺、秋田らの研究によってこうした構図が見えてきたことから、最近では経済援助を軍事産業(Military Industry)にではなく人道的産業(Humanitarian Industry)に充てるべきとする人道的支援(Humanitarian Aid)活動が話題となっている。また、経済援助は先進国からの一方的な供給に頼るのではなく、可能な限り現地から調達できるようなシステムを構築すべきとの主張もある。いかに土着産業を持続可能な形で発展させていくかという視点は、ガンディーの理想を踏襲しつつも現代的な価値観を無視していないと考えられ、当該活動の今後に期待したい。2021年2月4日に開催された国際武器移転史研究所のシンポジウム‘Past, Present and Future of Humanitarian and Development Aid: Rethinking the Aid Sector’におけるManipur Women Gun Survivors Network代表のBinalakshmi Nepramの報告より着想を得た。年内に論文化されるであろう。当該シンポジウムの詳細はhttp://www.isc.meiji.ac.jp/~transfer/news/2021/20210204.htmlを参照されたい。